光の速さはどのようにして秒速30万キロメートルになるのか?

以前、飲みの席で「なぜ光は、速度が秒速30万キロメートル(注1)なの?」と聞かれ、咄嗟に「それはそうだから」と半笑いで答えてしまい、咄嗟に質問の意図を汲みとった他の知人が助太刀をしてくれたおかげでその場は凌いだのですが、少々反省の意も込めて、この記事を書いている次第です。まずはこの質問の意味を少し考えてみましょう。(注1:光の速度=299 792 458 m / s)

日本語の「なぜ?どうして?」は英語の“Why?”に相当すると解釈します。その問いで聞いていることとは、対象である事象が何かの結果であると想定したうえで、その原因のことを指しています。ちょっと難しくなってしまったが要するに、「なぜ?」物事がこのようになっているのかは誰にも知り得ないことであり、つまり「わからない/そうだから」と言う答えに行き着くのです。

例えば、なぜ自分はここにいるのか?なぜ星があったり銀河があったりするのか?なぜ万有引力定数はこの値であるのか?なぜそれは定数なのか?なぜ宇宙は存在するのか?「なぜ」と言う問いには「〇〇だから」と言う答えを求めて聞いているわけですが、因果があるのかどうかわからないことに「なぜ?」と聞くのは誰にもわからない答えを求めていることになるのです。ですから、「なぜ?」という質問を突き詰めていくと「そうだから」としか言えなくなり、答えにはたどり着かないのです。

しかしほとんどの場合は質問者の意図は違います。間違った言葉で質問してきているにすぎません。言わんとしていることは「なぜ?どうして?」ではなくむしろ「どうやって?どのように?」であって、つまり英語の“How?”であります。「どうやって車は動くのか?」や「どうやって飛行機は飛ぶのか?」になり、それにはちゃんと答えがあるわけです。

本題に戻って、質問をそのように変えると「光の速さはどのようにして秒速30万キロになるのか?」になるのです。これならちゃんと答えられるのです。結論から言うと、光の速度は時空の性質からくるものなのです。

「光」とは、「波」の性質と「粒子」の性質を併せ持ち、電磁波でもあり光子でもある。又は、一般的に「エネルギー」や「熱」と呼ばれるものは「光」であり、世の中には様々な波長の光があちこちに飛び交っています。人間の目は可視光しか見えないのですが、もっと色々な波長の光が見えていたら、自分の周りすべてが光って、光に包まれた世界が見えることでしょう。太陽の出す光。その光を吸収した地球が「熱」として放出する赤外線、携帯電話やテレビ/ラジオの電波、天の川の全ての恒星、天の川以外の全ての銀河からの光、宇宙背景放射からの光。身の回りの全ての物質が熱を放っていて、即ち光っているのです。

光子とは光の粒子のことであり、エネルギーが量子化していて、つぶつぶとした感じのものであります。全く同じ光のことですが、波としても捉えることができます。光は電気の波と磁気の波が合わさってできているように表せます。電力と磁力は切っても切り離せず、二つの現象の基は一つの電磁気力と呼ばれる力の産物である。例えば電気をコイルに流すと磁場が発生して電磁石になったり、磁石をコイルの中を通すと電気が発生したり、電力も磁力も一つの力の現れなのです。その電力や磁力を“運ぶ”ものを電磁波と呼び、つまり光なのです。電磁波は電力の波の面と磁力の波の面が90度の角度で交差しているように表せることができるのです。

電磁波は電気の波(青、縦方向)と磁気の波(赤、横方向)がお互い90度の角度で直交している。それぞれの「壁」には二つの波の投影が描かれている。

19世紀の数物理学者たちはその当時はまだ謎だらけだった電力、磁力、そして光に大変興味を持ちました。そして、彼らはついに電力、磁力、光の性質の真理に辿り着くのです。それは驚くべきことに電力も磁力も光も同じ電磁力という一つの力によって現れる現象だったということです。中でもジェームス・クラーク・マクスウェルは、様々な学者と共に解明された電磁力の性質を4つの方程式として簡潔にまとめました。かの有名な「マクスウェルの方程式」と呼ばれ、古典電磁気学に多大な貢献をしました。

マクスウェルの方程式の一般的な微分表記(SI単位)。

全ては説明しませんが、これらの方程式に出てくるEベクトルは電力、Bベクトルは磁力であり、それらがどう互いに関係しているのかが記されています。ここで注目をしてもらいたいのがμ0(ミュー・ノット、又はミュー・ゼロ)とε0(イプシロン・ノット、又はイプシロン・ゼロ)という二つの記号。ミューゼロが磁気定数(permeability of free space)、イプシロンゼロが電気定数(permittivity of free space)と呼ばれる定数です。定数ということはその値は変わりません。磁気定数は真空の透磁率、電気定数は真空の誘電率を指します(注意:厳密には違うのですが、ここではその説明は省きます。興味がある方は是非、古典電磁気学を学んではいかがでしょうか)。つまり、磁気定数と電気定数は、真空の中でどのくらい磁気と電気が通るのかを表し、真空になっている時空の根本的な性質を表しているのです。

磁気定数(μ0)と電気定数(ε0)の値(SI単位)。

これらの定数は真空状態にしたときの空間、即ち時空の性質なのです。この磁気定数と電気定数をかけ合わせると面白いことが起きます(どうしてそうするかは幾何学的な理由なのですが、ここでは説明しません)。つまりミューゼロとイプシロンゼロを掛け算するのです。単位の部分を見てみましょう。キログラム(kg)とアンペア(A)の単位はそれぞれ相殺しあって消えます。残されたのはメートル(m)のマイナス2乗、そして秒(s)のプラス2乗ですね。この掛け算をルートに入れてひっくり返す(逆関数にする)と、m/sの単位になりますね。これは速さの単位ですよね。そうなんです!正にこれは、光の速さなのです。

光の速さは時空の磁気定数と電気定数から来ている。

(真空での)光の速さがこの値なのは時空の性質である電気定数と磁気定数から来るものなのです!これで電力、磁力、光が結びついていることがお分りいただけましたか?これで最初の問題にようやく答えられます「光の速さはどのようにして秒速30万キロメートルになるのか?」。答えは「時空の電気定数と磁気定数がその値だから」です。しかし、なぜそのようなことになっているのか?なぜ定数がその値なのか、と問われても、やはり「わからない、そうだから」が答えです。

Author: Alex

World-traveling astronomer. Exploring extragalactic space. Likes to educate others about astronomy.