私の主な研究の関心は、近傍銀河内での最近の星形成活動の調査にあります。私は、紫外線、可視光、赤外線の波長範囲にわたるイメージングデータと分光データの処理と解析を専門としています。
私の注目すべき業績の一つは、これまでで最も包括的なカタログの編纂(へんさん)と出版です。このカタログは、様々な形態の1931の近傍銀河に関する均質化されたフォトメトリーデータから成り立っており、特に紫外線(GALEX FUVおよびNUV)と赤外線(Spitzer/IRAC 3.6µm)の観測に焦点を当てています。この研究の詳細な報告は、Bouquin et al.による「The GALEX/S4G Surface Brightness and Color Profiles Catalog. I. Surface Photometry and Color Gradients of Galaxies」と題された論文であり、2018年にAstrophysical Journal Supplement Seriesの第234巻第1号で発表されました。この研究から得られた結果や、他の発表された論文は、私の博士論文にまとめられています。
背景
銀河は、多様な形状、サイズ、質量、輝度、色、恒星や塵の含有量、暗黒物質の質量など、さまざまな特徴を持っています。銀河には中心部が盛り上がったものや円盤状のものがあり、活発な銀河核(AGN)を持つものや棒状のものがあり、規則的なものから不規則なものまで、さまざまなレベルの構造のものがあります。銀河は拡散している場合もあれば、コンパクトな場合もあります。電磁スペクトルの赤外線(IR)や紫外線(UV)領域での明るさも異なる場合があり、ラジオ波がうるさい(=強い)銀河から静かな(=弱い)銀河もあります。
さらに、銀河は数十個の銀河から成る銀河群や、数百から数千個の銀河から成る銀河団(銀河クラスター)に集まる傾向があります。これらのグループ内では、衝突や近接通過などの銀河のダイナミクスが、銀河の進化に大きな影響を与えます。これにより、これらのグループやクラスターから遠く離れた孤立した銀河とは異なる進化を遂げることになります。
近隣の伴銀河(ばんぎんが=サテライト銀河)、銀河群、または銀河団(=銀河クラスター)からの環境的な影響が限られた、あるいはほとんどないと考えられる銀河は、銀河の長期的な進化に関する貴重な洞察を提供します。これらの銀河は、銀河の独立した進化過程を研究するための優れたテストケースとなりますが、特に長期的進化の文脈で重要です。このトピックに関する詳細な情報については、以下の「XUVディスク銀河」のセクションをご参照ください。
一部の銀河は活発な星形成プロセスを示す一方、他の銀河はそうではありません。紫外線(UV)観測は、約1000万年から10億年の範囲内で、まだ超新星になっていない最近形成された質量の大きな星(スペクトル型B)の存在を直接追跡できます。一方、赤外線(IR)観測により、既に形成された低質量星(スペクトル型M)を検出することができます。UVとIRの観測を組み合わせることで、既に存在する低質量星の数量を調べることで、星形成領域が新しく形成された構造なのかどうかを判断することができます。
もし星形成領域が赤外線(IR)観測で明るく見える場合、多数の低質量星の存在を示しており、星形成が相当な期間にわたって続いていることを示唆しています。逆に、その領域が赤外線の観測では暗く見えるが、紫外線(UV)で明るかった場合、低質量星の存在が最小限であることを示し、その特定の領域で初めて星の誕生していることを示します。
二峰分布(にほうぶんぷ)とGALEX GREEN VALLEY(ギャレックスグリーンヴァレイ)銀河
歴史的には、色-等級図や色-色図が長い間、銀河の分析に使用されてきました。近傍銀河の古典的な光学図では、分布が二峰性(にほうせい)であり、つまり、これらの図では銀河が二つの山に集まっています。より赤くて明るい銀河は、早期型(楕円銀河)で静穏な性質を持っており、一方、より青くて暗い銀河は、晩期型(渦巻銀河)で星形成を行っている性質を持っています。ただし、古典的な光学図では、異なる質量やサイズを持つ星形成銀河を明確に区別するのに十分な感度を持っていませんでした。
遠紫外線(FUV)、近紫外線(NUV)、および近赤外線(3.6 µm)フィルターを使用することで、星形成銀河とそれ以外の銀河を区別する能力を大幅に向上させることができます。これらの三つのバンドから、(FUV – NUV)、(NUV – [3.6])、および(FUV – [3.6]) の三つのカラーを効果的に計算することができます。
(FUV – NUV)と(NUV – [3.6])の色を使用して色-色図を構築すると、銀河の二峰性(星形成を行っているものと行っていないもの)が明確に現れます。これは、(FUV – NUV)の色が最近の星形成に対して敏感であり、(NUV – [3.6])の色が基礎となる低質量の恒星成分に対して分布を広げる役割を果たしているためです(上の図を参照)。この図から、銀河が明確に2つの系列に分布していることがわかります。それらは以下のように定義されています:青で示された主に晩期型の渦巻銀河や不規則銀河が占める「GALEX Blue Sequence (GBS)(ギャレックスブルーシーケンス)」と、赤で示された主に早期型の楕円銀河やレンズ状銀河が占める「GALEX Red Sequence (GRS)(ギャレックスレッドシーケンス)」です。
これらの系列は、我々が「GALEX Green Valley (GGV)(ギャレックスグリーンヴァレイ)」と呼ぶものも定義することができます。GGVはGBSとGRSの間に存在する領域で、緑色で示されます。GGVに存在する銀河は特別であり、GBSでもGRSでもないという点で特異です。また、その多くはS0またはS0-a(レンズ型、レンズ系渦巻型)という形態タイプに属しています。我々はGGVを銀河がGBSからGRSに移行する領域と解釈していますが、GRSからGBSに移行する可能性(例えば若返りを通じて)を排除していません。シミュレートされた銀河モデルを使用して、このような移行は10億年未満の時間スケールで迅速に起こることを示しています。
また、FUV、NUV、および3.6 µmの空間解像されたフォトメトリーの解析からも、一部のGGVおよびGRS銀河のディスクの外側が内側よりも赤くなっていることがわかります。実際に、GGVおよびGRSの両方の銀河において、GBS銀河の平均に対して統計的にこの効果を観察します。ただし、GGVの赤化はGRSよりも弱い傾向があります。
3.6 µmにおける統合フォトメトリーは、6秒角の解像度と6秒角の幅を持つ固定楕円体率および位置角の楕円リング状の領域で行われました。この測定により、GBS銀河では内部から外部への特定の星形成率(sSFR)(=星形成率を恒星質量で割ったもの)が徐々に減少していることがわかります。一方、GGVおよびGRS銀河では、µ[3.6]=20.89 mag arcsec-2を超える領域(より外側の暗い領域)では、星形成率は比較的一定のままです。
これらの結果は、GGV銀河の外部領域における星形成活動に影響を及ぼす何らかのメカニズムが存在していることを示唆しています。さらに、GGV銀河の大部分は実際にはおとめ座銀河団に属しています。環境がこの赤化を引き起こしている可能性があり、その現象はラム圧剥離(らむあつはくり)シナリオで説明される可能性があり、銀河がクラスターを通過する際に銀河間の物質と衝突してガスが銀河から剥がされるというものであり、剥離効果はより密度の低い外部領域でより効果的に起こる可能性があります。
GGV領域の個々の銀河について、より詳細で多波長の研究を行い、より大きなサンプルを収集することで、この効果をより良く定量化できることでしょう。その後、より遠い距離にある銀河(これまで使用していたものはすべて距離d < 40 Mpc、またはz < 0.01、またはvradial < 3000 km/s)の(FUV – NUV) vs (NUV – [3.6])の色-色図を構築する必要があります。これにより、この効果が時間とともにどのように変化するのかを知ることができるでしょう。
XUVディスク銀河
GGV銀河の星形成がある程度減衰しているのに対し、我々は最近の大規模な星形成バーストを持つ銀河も特定しています。
サンプル中では、GBS銀河の中でもかなりの割合(10〜20%)が拡張紫外線(XUV)ディスク銀河として分類しています。これらの銀河は、IRディスクに比べて極めて大きくて青いUVディスクを持ち(タイプ2 XUV)、または外側に拡張された星形成構造を持っていることがあります(タイプ1 XUV)。これらの星形成構造がどのようにして(見た感じ一斉に生成され)このように大規模で、銀河中心から離れた場所の広範囲に形成されるのかはまだ分かっていません。なぜなら、そのような低密度の領域では他の銀河では星形成が起こらないからです。
我々の分析では、XUVディスク銀河はより密度の低い環境を好む傾向があります。これらの銀河は孤立的進化の素晴らしいテストケースなのかもしれません。21 cmの電波波長での観測により、これらの銀河が直径数百キロパーセクの大きさの巨大な中性原子水素の雲に埋もれていることが明らかになってきてます。これらの水素の雲は、星形成バーストを引き起こす銀河の「餌」となる物質の供給源としての貯蔵庫なのかもしれません。ただし、そのようなガスの降下や降着現象はまだ観測されておりません。
XUVディスク銀河の金属の分布を調べるために、例えば星形成が起こるHII領域を見ること(主な発光線であるHαやNIIは、赤方偏移の影響が最小限である近傍銀河では可視光の範囲で検出可能)、および窒素などのキャリブレータに基づいて酸素対水素の丰度比(そんざいひ)を用いて金属含有量を推定することは、新たに生まれた星が形成されるガスの純度に関する手がかりを提供するかもしれません。
私たちは最近、カナリア大望遠鏡(GTC)でターゲット銀河内外の複数のHII領域のスペクトルを取得しました。GTCは、直径10.4メートルのセグメンテッドミラーを持つ、現在までに存在する世界最大級の光学望遠鏡です。
UV-アップターン銀河
GRS内で見られる静寂な銀河も、星形成をしていないにも関わらず紫外線が少しは放射しています。それは星形成によるものではなく(ただし、残留の星形成もあるかもしれません)、むしろ古く進化した低質量星によるものです。静寂な楕円銀河の観測では、そのスペクトルエネルギー分布は、他の波長に比べて紫外線領域で低い値を示し、約1500Å周辺でFUVが増加することがわかっています。このFUV放射の源の性質自体はまだ議論の的となっていますが、コミュニティ内で広く共通しているのは、これがいわゆる紫外線上昇(UV-upturn, ユーブイアップターン)星(主系列から離脱し、ヘリウムコアの燃焼プロセスを開始した後の進化段階にある星)の現れであるということです。
我々はGALEX/S4Gサンプルから早期型銀河(early-type galaxies; ETGs)のサブサンプルを特定し、その(FUV – NUV)の色を分析しました。ETGsでは、(FUV – NUV)の色と恒星の質量対光度比ϒ*との間に強い相関関係を見つけました(Zaritsky et al. 2014, 2015)。すなわち、UVの色がより青いほど、比率が大きくなります。これは次のように解釈できます:質量が大きいほど、より多くの星が存在し、より多くの紫外線上昇星が存在し、全体としてより多くのFUVが放射されます。FUVの量は、生まれた低質量星の割合と直接関連しています。
巨大分子雲から生まれる異なる質量の星の数は、初期質量関数(initial mass function; IMF)として知られるもので説明できます。IMFは普遍的で、すべての銀河や条件で同じであると考える人もいます。もう一方では、IMFは異なる可能性があり、銀河ごとに、さらには分子雲ごとにも同じではないと考える人もいます。仮に、質量と質量対光度比が同じである2つのETGがあり、わずかに異なる(FUV – NUV)の色を持っているとします。これは、2つの銀河が異なる数の紫外線上昇星を持っていることを示しており、したがってIMFが異なる可能性があることを示唆しています(これはIMFの普遍性がまだ議論されているため重要です)。銀河の(FUV – NUV)の色を見ることで、IMFが異なる場合にそれらを区別するために使用できると推測します。
結論
GALEX/S4Gサンプルは、近くの銀河から成る、注目すべきデータセットであり、幅広い探査の機会を提供します。我々が研究している特定のサブサンプルに限らず、さまざまな銀河を包括しています。そのため、バーとリングがUV-IRの色や星形成率に与える影響を研究するなど、さまざまな特性のさらなる調査に大きな価値があります。宇宙の広がりは驚くべきものであり、数え切れないほどの現象と発見が探求を待っています。