紫外線とHα画像で探る!棒銀河の星形成の空間分布

ハッブル宇宙望遠鏡で見たNGC 1300 棒渦巻銀河。Credits: NASA, ESA, and The Hubble Heritage Team STScI/AURA

参照論文:
Díaz-García, Simón; Moyano, Facundo D.; Comerón, Sébastien; Knapen, Johan H.; Salo, Heikki; Bouquin, Alexandre Y. K.
NASA-ADS: https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2020A%26A…644A..38D/abstract
Publication: Astronomy & Astrophysics, December 2020, Volume 644, id.A38, 23 pp.


概要:GALEX/S4G銀河サンプルの772個の棒渦巻銀河を銀河型によって分類した後、紫外線画像のデプロジェクション、棒のアライン、スケーリング、Z字の渦をS字デフォルトに反転等を施してから画像スタッキング(積み重ね)を実施した。最後に、棒での恒星生成領域を3つのカテゴリーに分け、銀河タイプによってどの恒星生成領域における恒星生成が活発であるのかを探ってみた。

結論:棒における恒星生成領域を紫外線画像やHα画像によって見ることができ、また紫外線画像をスタッキングすることによって棒の微量な星形成を際立たせることにより分析をした結果、楕円型棒銀河では棒の中心に、早期型の棒渦巻銀河では棒の先端にのみ、より晩期型の棒渦巻銀河では棒全体に、星形成領域が分布していることがわかった。


説明:銀河には様々な形や質量やその他の特徴がある。その中でもひときわ目につくのが渦を巻いている銀河である。渦が巻いているように見えるので渦巻銀河と呼ぶのだが、渦巻きの部分をさらによく見てみると、渦巻き模様が銀河の中心のバルジから伸びているものと、バルジを突き抜ける棒のような構造の先端から伸びていてあきらかに形状的特徴があるものとに別けることができる。後者が「棒渦巻銀河」と呼ばれるものである。

棒がある銀河は特にこれといったタイプはなく、ハッブルタイプ別に見ても全てのタイプの棒渦巻銀河(英:barred spirals)が存在する。

棒とはなんなのか?そして渦とは?原因は密度波と考えられ 、渦に見えるのは星形成がごく最近起きている部分で、銀河円盤のほんの一部が明るくなっていると思われる。では中心付近にある棒での星形成はどうなっているのだろうか?棒と星形成の因果関係はあるのか?

この研究では、GALEX紫外線宇宙望遠鏡の遠紫外線(FUV)画像、Spitzer赤外線宇宙望遠鏡の近赤外線(3.6μm)と、様々な天文台で得られたHα画像を使用(追加画像も取得)。遠紫外線で約10億年未満の星形成のトレースと、Hαでは約1000万年未満の星形成をトレースすることができる。赤外線では銀河の分類が行われた。

銀河分類の後、それぞれの銀河のデプロジェクションを経て、棒を基準にアライン、スケーリング、渦の向きをS字に揃えたりしてから、紫外線画像を重ね合わせた(スタッキング)。すると、銀河タイプ別に棒の星形成率の平均がわかるという寸法。

銀河タイプ別スタッキング。上段は近紫外線(NUV)、下段は遠紫外線(FUV)。左から右へ楕円銀河から不規則銀河へと5つのハッブルステージのビニングで並べられている。

紫外線画像スタッキングの他に、一枚一枚の紫外線画像とHα画像の分類も行った。星形成の分布にはパターンがあるようだ。そこで、この研究では新しい分類法を考案、「星形成クラス」という分類を試みた。以下、星形成クラスの分類を表にしたものだ。

この研究で使用した星形成クラス(SF class)。星形成クラス Aは棒領域の中心だけに星形成がある。Bは棒の両先端に星形成領域はあるが、棒の途中にはない場合。核周囲に星形成がある場合はBa、なかった場合をBbと細分化する。Cは棒の途中に星形成がある場合。Bと同様に、Cも核周囲に星形成がある場合をCa、ない場合をCbと細分化する。Nはフラックスが観測がされなかった場合。Uは分類ができなかった場合。

主に星形成の分布を5つのクラス、A、B、C、N、Uに分けられる。クラスAは星形成が棒の中心付近に集まっている場合。クラスBは星形成が棒の先端に集まっている場合。クラスCは星形成が棒の途中に集まっている場合。クラスNは棒に全くフラックスを感知しなかった場合。クラスUは分類できなかった場合。

さらにクラスBとCは二分割されていて、小文字のaがつくのは核周囲にも星形成があった場合、小文字のbは核周囲に星形成が無かった場合。

星形成クラスA, B, Cをハッブルタイプ別にビンして、上(青)が遠紫外線、下(赤)がHαで見た場合の分布。つまりハッブル型が-3から0(楕円ーレンズ銀河)の場合、星形成クラスAの銀河が多く、棒の内側の領域にしか星形成が起きていないことがわかる。クラスCはハッブル型が5から8のScやSd型の渦巻銀河から、8から10のSmやIrr型の不規則銀河に偏りがある。クラスBはハッブル型が0から3のS0-aやSa、Sb型に多い。

上記のヒストグラムでは棒の星形成分布を表す星形成クラスA、B、Cと、銀河全体の形を表すハッブル型を比較してみた。青いヒストグラムは紫外線画像だけを使った場合。赤いヒストグラムはHα画像だけを使った場合。どちらも大体同じ結果となった。

結果は星形成クラスA、つまり棒の中心部にしか星形成がある銀河のほとんどはハッブルタイプが−3から0、早期型のE-S0型(楕円レンズ型)やS0-a(またはS0/a)型だ。星形成クラスBは早期型の渦巻銀河(Sa~Sbc型)に多く、星形成クラスCは晩期型の渦巻銀河( Sc~Irr)に多いという結果だ。

渦巻銀河の棒スタックでは、シミュレーションで確認されたように、紫外線放射は恒星棒をトレースし、その先端側で強くなっている。早期型渦巻銀河では、強い棒状銀河の方が弱い棒状銀河よりも約0.5等明るく、これはおそらく強い棒状銀河が円盤ガスを掃引して中心部のスターバーストを誘発する効率に関係していると考えられる。逆に、晩期型銀河では、強い棒銀河の紫外線放射は、弱い棒銀河や非棒銀河よりもすべての半径で強い。また、内側にリングのある内縁銀河の星形成分布は、内縁銀河と非内縁銀河でほぼ同じであり、内縁銀河の中央部ではUVとHαが欠損していることがわかった。これは、共鳴リングがガスを閉じ込めて、内側にガスが流れなくしていることを示唆している。

異なる形態の銀河において、棒内の星形成の分布が異なることがわかった。星形成棒が最も多いのは、ガスが豊富な晩期型銀河である。棒が円盤内の星形成を制御する重要な役割を担っていることがわかった。

Author: Alex

World-traveling astronomer. Exploring extragalactic space. Likes to educate others about astronomy.